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架空・お悩み相談室74『息子が鍵を紛失します』

【お悩み】
現在26歳の息子のことで悩んでいます。幼い頃から鍵っ子だったのですが、鍵を持たせても持たせてもすぐに紛失してしまいます。今までに14~5本はなくしたでしょうか。同居していない時期もありましたので毎年のように新しい鍵を与えてきた感じです。ひどい時には3ヶ月もたずになくしてくることもありました。あまりにもひどいのでここ数ヶ月は母親の鍵を貸してやっていました。そうすると紛失はせず、母親の帰宅時には家にいるように気をつかうことはできるのです。お互いに不自由なのでやはり鍵を作ってやったのですが、またすぐになくすのではと心配です。どうしたものでしょうか?(神奈川県/YMMさんのお悩み)

【お答え】
全く困ったものですね。いったいに鍵というものは人間のもつ道具の中で、ナイフやお椀などに比べてよほどの新参もののくせに、人間に大事にされるからと驕り高ぶる傾向が一番つよいのです。考えてみますと鍵とは特異なもので、家を出るとき、また家に戻るときの2回しか用いられず、家の外でも家の中にも出番はなく、家の外とも中ともつかないただ1箇所にしか必要はないのに人間の行くところ行くところどこにでもついてまわるので、たいていはポケットの中にいて外を見たこともないくせに、なんでも知っていると偉そうにして、まさに井の中の蛙とはまさに鍵のためにあるような表現なのです。そういう性分ですから、鍵は機会さえあればポケットの中から滑り出し、広い世の中をわがもの顔にのさばり歩きたいという野心をいつも持っていて、だからこそ人は鍵を後生大事にしまいこみ、決して飛び出さないよう丁重に扱うという習慣を育てたわけなのですが、これは人と鍵の関係にとって決して良いこととばかりは言えません。大事にされるからつけあがり、つけあがるから無謀な行動に出ようとする、それをおさえようとしてさらに大事に……これでは永遠の悪循環です。井の中の蛙の困った性質を正すには、本来の場である野に戻して、生き抜くことができようとできまいと、蛙自身の才覚に任せるほかはないではありませんか。そう考えると息子さんの鍵への関わり方は、革命的な選択と呼べるのかもしれません。世の不正をただすべく、決して勝ち目のない戦いに挑む26歳の果敢な挑戦。なんと見上げた心がけでしょう。親御さんとしては、どうしようもない困った性質の鍵たちには、息子のポケットに入るからには、自分の力で命を賭して彼のポケットにしがみついておかなければ、きっと遺失物保管所で、虚しく引き取り手を待つ何万本の傘などに見下されながら何年も過ごしたあげく、金属スクラップとして悲しい末期をたどるほかはないのだぞと、せめてもの親心で言い聞かせてみるよりほかに、すべはないのではないでしょうか。それでも野心にまかせ、路頭に迷う道を選ぶのであれば、それは、彼らの運命として、広い世間へ送り出してやるより仕方ありません。
by atohchie | 2003-04-01 03:47 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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_d0024220_16184139.jpg
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