2013年 04月 02日 ( 1 )

静かな午後に隣人が訪ねてきたならば【修道士カドフェルシリーズ】

さて水曜日は本の話。

これは私の記憶の中の、本の話です。
昨日読んだ本でさえ、思い出して語ろうとすると筋はごちゃごちゃ、
他の本と混じったり、存在しないエピソードが紛れ込んだり、
まったく正確ではないことが多いのですけれど、
この日記ではあえて、読み直して確認したりせずに、
間違っているかもしれないことを書きます。勝手な本の話です。


どういうきっかけだったか知らないが、「師匠」こと我が母が一気に購入し、皆で一気に読んだ21巻、中世の修道士カドフェルが探偵として、治療家として、調停者として大活躍するミステリーです。なにしろ中世の話なので法律なんか出てこない、無味乾燥な裁判もない。神の定めたもうたことわりによって、罪人には温情あふれる裁定が下り、恋人たちは幸せに結ばれ、カドフェルはまた修道院の薬草園に戻り、あるいははちみつのお酒ミードを一杯やりつつごきげんに、穏やかな日々が流れていく。
まあ実際、何から何までこれは非の打ちどころなく好きだったなあ。21巻で完結と知った時は天を恨んだくらい。お酒売り場でミードを見かけたときには十分ほども悩んだあげく買ってしまったくらい。
文庫本を本棚に並べて三十センチと少々あるだろうか、順々に読んでいる間、心は敬虔なクリスチャンになりきっていたらしいです。その日、両親の家で留守番中、いつものように物語の世界に没頭していると、インターホンが鳴りまして、見知らぬ男女が荷物を手に、なにやら怪しげなはちみつか何かを売りつけようとするのだった(コーヒーだったかもしれない)。モニターに映し出された顔を見れば目はおどおど、声は今にも消え入りそう、この町にやってきて何軒、何十軒も、けんもほろろの門前払いをひたすら食ってきたのに違いなかった。わたしも現代人の一人として、戸別訪問の営業さんのお話を心穏やかにゆっくり伺ったことなんかてんでない。けれどその日はあら不思議、ちょっと待ってくださいねと門のところへ出ていって、ふうん、じゃ、これだけ、いただきましょうかと財布を開いてお金を数えはじめたら、相手がびっくり、言葉を失っていた。
ありゃ、まったく、隣人愛に満ちたキリスト教徒の行いそのものであった、と、今でも思う。まったく自然にお金が財布から出ていったのだ。善行を施したという得意さも、無用の買い物をした悔しさもなかった。ただ、神の思し召しにより導かれた出会いとでも言おうか、なんとも不思議なありがたさだけが静かに心に満ちたような……あれから、師匠の家で留守番をしたことは数あれど、怪しげなはちみつ売り(またはコーヒー売り)が訪ねてきたことはただの一度もありません。
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by atohchie | 2013-04-02 20:27 | 水曜日は本の話


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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