架空・お悩み相談室100『もしかして、文章ってアメちゃんですか?』
【お悩み】
阿藤 智恵さま おしえてください!!
もっと一文一文を練ってください!と先生からご指摘をいただきました。
…練って練って練ったら、こんがらがってわけわからんようになりました。
…もしかして、文章ってアメちゃんですか?
どうすれば、阿藤さんのように、綺麗な文章が紡げるのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
「真面目」「ほら」両バージョン希望!(兵庫県/あめりさんのお悩み)
【お答え】
いつ、でも、どこ、でもない世界があった。
「ことば」に、「時間」のない世界であった。
この世界では、「お話」にも「時間」がなかった。
「お話」は、ちょうど飴玉のようなものだった。
砂糖と水を熱して、練って空気を含ませてから、いくらかずつわけて、味や香りをつけて、それらを組み合わせて、美しく、すてきに美味しく、不思議な驚きに満ちた飴玉はできあがる。
「お話」は「ことば」でできているのだから、実際に、「お話」をそうやって鍋で練って作るわけではないが、まあ、そのようにしてこの世界での「お話」は作られる。
甘い味、苦い味、すっとする味、涙が出る味、微笑みのもれる味、眉をしかめてしまう味、胸がきゅんとする味、お腹をかかえて笑いたくなる味、ぼんやりした味、なんとも言えない味、もっともっとと言いたくなる味、ほんわかした味、かっとなる味、ぺっと吐き出したくなる味、「お話」は、そんなたくさんの味のまぜこぜで、人は、ちょうど飴玉を味わう時のように、たくさんの味を少しずつ、舌でなめて味わってもいいし、口のなかで転がして、自然に混ざった味を楽しんでもいいし、いっぺんに噛み砕いていっぺんに味わってもいい。
「ことば」に「時間」のない世界では、「お話」はいっぺんに、全方向から味わえるものなのだ。
わたしたちの生きる世界は、「時間」に支配されている。
「ことば」には「時間」があるし、人は、一度にひとつの「ことば」しか味わうことができない。
だから、わたしたちの世界では、「お話」は飴玉というよりは、糸玉のようなものだ。
甘い糸、苦い糸、すっとする糸、涙が出る糸、微笑みのもれる糸、眉をしかめてしまう糸、胸がきゅんとする糸、お腹をかかえて笑いたくなる糸、ぼんやりした糸、なんとも言えない糸、もっともっとと言いたくなる糸、ほんわかした糸、かっとなる糸、ぷつんと切りたくなる糸、「お話」はそんなたくさんの糸のつなぎあわせで、人は、ちょうど糸玉をほぐす時のように、端っこから順序よく、糸をたぐっていかなくては「お話」を読むことはできない。ときどき、面倒になって糸の束を玉からはずしてしまうことがあったとすると、その束の中の糸が、どんな糸のつなぎあわせだったかを、その人は知らないままに終わってしまう。
だから、この世界では、「お話」は「飴玉を練るように」、よりは、「糸をつなぎ合わせるように」作られる。
ときどき、あの「時間」のない「ことば」の世界を少し知る人が、「お話は練るものだ」と語ることがあるけれど、実際にその人がしていることは、「時間」をもつ「ことば」を鍋に入れて、しっかりと練るような作業ではなくて(そんなことは、この世界ではできないことなのだ)、「ことば」の糸を丁寧にたぐって、こんがらがったところをほぐし、いっぺんにたくさんつながってしまったところはほどき、長くても、短くても、それぞれに特別な一本の糸になるようにつなぎなおし、それを、丁寧に二度とこんがらがらないように巻きなおす、そういう作業なのだ。
切れやすい絹糸や、熱に弱い化繊の糸、ふわふわした毛の糸を、大鍋に入れて火にかけて、ぐつぐつ練りまわすようなことをしたら、あなたは二度と、それらの糸をつなぎあわせて美しい糸玉をつくることはできない。
今度「文章は練りなさい」と言われたら、それは一種の比喩なのだということを、思い出すといい。
どこでもない、いつでもないあの世界でのやり方で、この世の「ことば」を扱うことは、できないのだ。
わたしたちは、「時間」を生きるいのちなのだから。
阿藤 智恵さま おしえてください!!
もっと一文一文を練ってください!と先生からご指摘をいただきました。
…練って練って練ったら、こんがらがってわけわからんようになりました。
…もしかして、文章ってアメちゃんですか?
どうすれば、阿藤さんのように、綺麗な文章が紡げるのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
「真面目」「ほら」両バージョン希望!(兵庫県/あめりさんのお悩み)
【お答え】
いつ、でも、どこ、でもない世界があった。
「ことば」に、「時間」のない世界であった。
この世界では、「お話」にも「時間」がなかった。
「お話」は、ちょうど飴玉のようなものだった。
砂糖と水を熱して、練って空気を含ませてから、いくらかずつわけて、味や香りをつけて、それらを組み合わせて、美しく、すてきに美味しく、不思議な驚きに満ちた飴玉はできあがる。
「お話」は「ことば」でできているのだから、実際に、「お話」をそうやって鍋で練って作るわけではないが、まあ、そのようにしてこの世界での「お話」は作られる。
甘い味、苦い味、すっとする味、涙が出る味、微笑みのもれる味、眉をしかめてしまう味、胸がきゅんとする味、お腹をかかえて笑いたくなる味、ぼんやりした味、なんとも言えない味、もっともっとと言いたくなる味、ほんわかした味、かっとなる味、ぺっと吐き出したくなる味、「お話」は、そんなたくさんの味のまぜこぜで、人は、ちょうど飴玉を味わう時のように、たくさんの味を少しずつ、舌でなめて味わってもいいし、口のなかで転がして、自然に混ざった味を楽しんでもいいし、いっぺんに噛み砕いていっぺんに味わってもいい。
「ことば」に「時間」のない世界では、「お話」はいっぺんに、全方向から味わえるものなのだ。
わたしたちの生きる世界は、「時間」に支配されている。
「ことば」には「時間」があるし、人は、一度にひとつの「ことば」しか味わうことができない。
だから、わたしたちの世界では、「お話」は飴玉というよりは、糸玉のようなものだ。
甘い糸、苦い糸、すっとする糸、涙が出る糸、微笑みのもれる糸、眉をしかめてしまう糸、胸がきゅんとする糸、お腹をかかえて笑いたくなる糸、ぼんやりした糸、なんとも言えない糸、もっともっとと言いたくなる糸、ほんわかした糸、かっとなる糸、ぷつんと切りたくなる糸、「お話」はそんなたくさんの糸のつなぎあわせで、人は、ちょうど糸玉をほぐす時のように、端っこから順序よく、糸をたぐっていかなくては「お話」を読むことはできない。ときどき、面倒になって糸の束を玉からはずしてしまうことがあったとすると、その束の中の糸が、どんな糸のつなぎあわせだったかを、その人は知らないままに終わってしまう。
だから、この世界では、「お話」は「飴玉を練るように」、よりは、「糸をつなぎ合わせるように」作られる。
ときどき、あの「時間」のない「ことば」の世界を少し知る人が、「お話は練るものだ」と語ることがあるけれど、実際にその人がしていることは、「時間」をもつ「ことば」を鍋に入れて、しっかりと練るような作業ではなくて(そんなことは、この世界ではできないことなのだ)、「ことば」の糸を丁寧にたぐって、こんがらがったところをほぐし、いっぺんにたくさんつながってしまったところはほどき、長くても、短くても、それぞれに特別な一本の糸になるようにつなぎなおし、それを、丁寧に二度とこんがらがらないように巻きなおす、そういう作業なのだ。
切れやすい絹糸や、熱に弱い化繊の糸、ふわふわした毛の糸を、大鍋に入れて火にかけて、ぐつぐつ練りまわすようなことをしたら、あなたは二度と、それらの糸をつなぎあわせて美しい糸玉をつくることはできない。
今度「文章は練りなさい」と言われたら、それは一種の比喩なのだということを、思い出すといい。
どこでもない、いつでもないあの世界でのやり方で、この世の「ことば」を扱うことは、できないのだ。
わたしたちは、「時間」を生きるいのちなのだから。
by atohchie
| 2003-04-01 07:00
| 缶詰製作中(書斎より)
阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。
by atohchie
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阿藤智恵NEWS
●脱原発世界会議に賛同します。安心できる明日を子どもたちに。
●阿藤智恵サイトを更新しました更新日:2013年12月31日(火)
◆これからの阿藤智恵◆
1月19日
「第3回JAZZ&お話ライブ」
1月23日
「どこそら会」
3月8・9日
「『えんげき』のじゆうじかん」の
小さなお芝居の会と「ちえよむ会」
●戯曲集『十六夜の月』を出版しました。
ご購入は阿藤智恵への直接注文または書店にてご注文ください。また、ネット書店でも購入できます。
●受賞しました。
加藤健一事務所vol.83 「シュぺリオール・ドーナツ」
念願の翻訳デビュー、果たしました!
→本作品で、第5回小田島雄志・翻訳戯曲賞をいただきました。加藤健一さん、演出の大杉祐さんはじめ公演座組の皆さん、また、翻訳作業にお力添えを下さった多くの方々に、心から感謝します。
●戯曲『死んだ女』が雑誌【テアトロ】2013年1月号に掲載されました。
★『どこまでも続く空のむこうに』の劇評をいただきました!!大変な力作です。ぜひご一読ください。2012.4.19
こちらをクリック=
劇評サイトWonderland
●戯曲『どこまでも続く空のむこうに』が雑誌【テアトロ】2012年4月号に掲載されました。
●小説『マチゾウ』で同人誌【突き抜け4】に参加しました。
ご購入はこちらへ(「阿藤サイトから」と一言お書き添えくださいませ)。
★『曼珠沙華』の劇評をいただきました!!
ぜひご一読ください。2011.10.26
こちらをクリック=
劇評サイトWonderland
●公演終了しました。
Pカンパニー番外公演その弐「岸田國士的なるものをめぐって~3人の作家による新作短編集~」竹本譲さん、石原燃さんと、短編を1本ずつ書きました。私の作品タイトルは『曼珠沙華』です。
★雑誌『テアトロ』10月号に三本そろって掲載されています。
●連載エッセイ「本日も行ったり来たり~トハナニカ日記~」
雑誌【テアトロ】2012年1月号に最終回が掲載されています。
●日記のお題、ください!
阿藤への質問、お悩み相談、どのようなことでもどうぞ。心こめて書かせていただきます。
お題は阿藤へのメール、または、日記へのコメント(どの記事につけてくださってもOKです)でどうぞ。
●戯曲『十六夜の月』が雑誌【テアトロ】2011年7月号に掲載されました。
●小説『ツヅキ2011』で同人誌【突き抜け3】に参加しました。
ご購入はこちらのフォームへ(「阿藤のブログから」と一言お書き添えくださいませ)。
●戯曲『バス停のカモメ』が雑誌【テアトロ】2010年1月号に掲載されました。
●戯曲『しあわせな男』が雑誌【テアトロ】2008年10月号に掲載されました。
●石井ゆかりさんの
「石井NP日記」で
インタビューを受けました。
こちらの
「ロードムービー・その1」で5番目にインタビューされています。
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「第3回JAZZ&お話ライブ」
1月23日
「どこそら会」
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→本作品で、第5回小田島雄志・翻訳戯曲賞をいただきました。加藤健一さん、演出の大杉祐さんはじめ公演座組の皆さん、また、翻訳作業にお力添えを下さった多くの方々に、心から感謝します。
●戯曲『死んだ女』が雑誌【テアトロ】2013年1月号に掲載されました。
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●連載エッセイ「本日も行ったり来たり~トハナニカ日記~」
雑誌【テアトロ】2012年1月号に最終回が掲載されています。
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