架空・お悩み相談室99『かかとの減り具合』

【お悩み】
クツのかかとがいびつに減ります。歩くときのクセだと靴屋に言われました。
ふむ。してみると、ボクのかかとは裸足で歩いてるときにもいびつに減っているのですか?(鹿児島県/おいどんさんのお悩み)

【お答え】
モノは、何度も強くこすられたり、しょっちゅう力をかけられると摩耗しますが、生き物の皮膚は、逆に分厚くなります。いつも筆記具をつかって何か書いている人の手に「ペンだこ」を見たことはありませんか?かかとも同じです。いびつに減っている靴底の部分に当たるかかとは、よく見ると、おそらく硬くなっているはずです。皮膚が硬くなるのは「角質化」と言って、人の身体に備わった防御のしくみです。皮膚が摩耗して、穴があいてしまうと大変ですから、そこを硬く、分厚くして、身体の内部を守るのです。「角質」というのは文字通り、皮膚が硬化して、ちょうどサイの角のようになったものです。あなたはたぶんお若いので、かかとが角質化しているときいてもあまりピンとこないのでしょうが、周りにいるご高齢の方のかかとをいろいろ見せてもらってごらんなさい。生活のしかたによって差はありますが、多くの方のかかとが角質化しているはずです。
それにしても、「硬くなったかかと」と「サイの角」が同じだなんて、おかしいな、ずいぶん違うように見えるけど……そうお思いですか。しかし、人のかかとも、やり方によっては、サイの角のようにりっぱにとんがることができるのです。
今を去ること数百年前、まだヨーロッパにも秘境と呼ばれる険しい土地が残っていた時代のことです。南チロルの山岳地帯、きりたった岸壁にはばまれた場所に、誰も知らない小さな国がありました。周囲の村々との交流もなく、時に山岳地帯を越えてくる山賊や軍隊にも長らく発見されなかったこの村に、不思議な色の肌をした少数民族が住んでいたのです。あるとき、イタリア軍の一人の兵士が行軍中に奇妙な幻覚のようなものに悩まされ、足手まといを嫌った軍に置き去りにされました。彼、ジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳は、何日も飲まず食わずの身体でさまよい歩いたあげく、どこをどう歩いたものか、この集落に迷いこみました。
ジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳が、幻覚がさらに鮮やかな、手触りや匂いまである恐ろしいものに変わったと思いこみ、これはいよいよ狂い死にするのだと泣き出したのも無理はありません。美しい岸壁の下を行き交う人々は、うす紫色の肌をして、驚くほど長い足を優雅に動かし、ゆらゆらと歩いていたのです。人々は親切でした。泣きじゃくる彼をそっと抱きおこし、飲み物を与え、寝かしつけてやりました。
ジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳は何日間も昏睡し、手厚い介抱を受けて、息を吹き返しました。
夢とうつつの間で、ジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳も、人々が彼の幻覚ではないこと、現実の存在であることを少しずつ理解することができ、とうとうすっかり元気になった時には、片言ながら彼らの言葉を解し、不思議な彼らの姿を美しいものと思えるようになっておりました。
中でもジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳の心を惹きつけたものは、彼らの足でした。驚くほど長い足、と見えたそれは、ちょうど現在のハイヒールをはいたようにつま先だった形で角のようなかかとにささえられた、それは美しいものだったのです。
まったく、彼らの足ときたら、どれほど美しかったことでしょう!
元気になったジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳は、不思議なかかとについて、人々に訊ねました。人々の方は、べたべたと足裏をついてあるくしかないジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳の丸っこいかかとを面白がりました。
「君はまるで赤ん坊のような足をしている」彼らは言いました。「わたしたちの国では、みな歩きだす前にかかとを強く、美しく整え始め、成人するころには皆、このように歩くようになります」
ジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳は赤ん坊や少年少女たちが、どのようにかかとを育てるか、また美しい大人たちがどのようにかかとを手入れするかを見て歩きました。少年少女たちが、岸壁に咲くうす紫色の花の根で作った特別な液体をかかとにたらし、岸壁の中からとりだすうす紫のいしで作った特別な槌でかかとを鍛えるのも見ました。懇願して薬をもらい、槌をゆずりうけたジョヴァンニ・デル・カヴァッロ16歳は、ジョヴァンニ・デル・カヴァッロ22歳になるまで懸命の努力を続けましたが、ジョヴァンニ・デル・カヴァッロ22歳のかかとは、彼らのように美しい角と化すことはなく、ただ硬く、ひびわれていくだけでした。
そうしてジョヴァンニ・デル・カヴァッロ22歳は、ついにある日、美しいかかとを手に入れることを断念し、密かに抱いた恋心にも硬く硬く封印をして(なぜなら「赤ん坊のようなかかとの男」には、美しいその人に求婚する資格はなかったからです)、親切な人々に永遠の別れを告げて、国へと帰って行ったのです。
その後、おしゃれで名高いフランスの王が、かかとの高い靴をつくる珍しい職人を発見したいきさつは、現在まで明らかにされておりませんが、そこにジョヴァンニ・デル・カヴァッロの影が落ちていることは、恐らく疑いもないことと私には思われます。
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by atohchie | 2003-04-01 06:56 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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