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架空・お悩み相談室95『間抜けな癖と八兵衛の謎』

【お悩み】
阿藤先生
私は、困ると鼻の下をぐっとこする癖があります。
そのため、大事な会議でここぞという説明を偉そうにするときに、鼻の下が真っ赤になっていることがあります。
先日、鏡のある会議室で写った自分の顔が間抜けの八兵衛のようで恥ずかしくて、偉そうに発言できなくなってしまいました。
無意識にやってしまうこの癖はどうしたらよいのでしょうか。
そもそも、なぜふと頭のなかに八兵衛という名前が浮かんできたのだろうかと、この1年悩んでます。(読売ランド駅前/ボナセーラ・三重子さんのお悩み)

【お答え】
「八兵衛」は、江戸落語でおなじみの、長屋に住む男の名前ですね。カッとしやすく、おっちょこちょいで、失敗だらけだけれど人情に厚く、憎めない、つまるところ、とても魅力的な男の二人組、「熊さん、八っつぁん」のコンビは、長らく日本人に愛されて参りました。「間抜け」という言葉に、自然と「八兵衛」がくっついて、頭のなかで「間抜けの八兵衛」となったのは、日本人としてはなんら不思議でないように思われます。しかし、どうもそれではなさそうな、どうにも気にかかる、そんな感じを覚えていらっしゃるのですね。あなたの心のなかに、「これは何かあるぞ」と注意信号が点滅し続けているのですね。
よくお気づきになりました。
一般の日本人なら、耳慣れた感のある「間抜けの八兵衛」のフレーズに、違和感を覚えることなど決してないはずでございますのに、さすが、「八平さま」の血脈のなせる技と言わざるをえません。わたくし、すっかり感じ入りました。

は!失礼しました。あなたさまにお声をかけていただいた感動のあまり、つい先走って、奇妙なことを申しました。ご説明を申し上げます。

むかしむかし、神代の昔のことでございます。この国は、八百万の神がひしめきあう、地球上でも有数の神密度の大変に高い土地でございました。むかしの神さまと申しますのはそれぞれに我が強いといいますか、個性的といいますか、共に暮らしてゆくことの、なかなかに難しい方々でございました。小さな島々に、それはたくさんの神さまがおわしますのです。それぞれの神さまに、おつれあいがあり、恋人があり、おつきの神があり、まかないの神、縫い子の神があり、友があり、相性の悪い相手があり、お好きな食べ物があり、お嫌いな方角があり、、、いやはや、あの時代、いかにして神々が小さな島を粉々にしてしまうほどの争いを避け、どうにかこうにかひしめきあって暮らしておられたのか、不思議には思われますまいか。

そうです。その不思議を、長い長い神代の時代、なしとげられたのは、あなたがその血を引く、「八平さま」ただお一神の、ご尽力のたまものであったのです。

「八平さま」と申しますのは、世にいうニックネームのようなものでございまして、ご本名はなんとおっしゃいますことか、わたくしどものような者の知らされるところではございません。
その由来は、「八方平らになるように」、あるいは、「八百万のなべて平らになるように」といつも唱えておられたという、「八平さま」の大いなる力によるものだそうでございます。
もはや「八平さま」への信仰も途絶えて久しいこんにち、かの神さまの御行いの具体的な様子は霞と消えて、もはやたどることはできません。ただ、「八平さま」の神通力は、その立派にたくわえられたおヒゲにあったということは、どうやら確かなようです。

「八平さま」は、おそろしく鋭い耳をお持ちでありました。また、鳥や獣、虫たちといった生き物たちを、時には木々やそよ風、小さな地下水の流れなども、しもべとして従えておられました。いったん神々が争いを起こされますと、そうした生き物たち、しずかな命たちは踏みにじられ、住処を追われてしまいます。彼らが島々の平和を守る「八平さま」にお仕え申したのは自然の理でもあったのでございましょう。ともかく、「八平さま」は、どのような小さな島におわしますときも、たくさんの島々の全ての神さまの動向を、よくご存知でいらっしゃったのです。
どこかで小競り合いがあったり、一触即発のにらみ合いがおこると、、「八平さま」はすぐとそれにお気づきになられます。どこで何をしておられようと、「八平さま」は争いの起きそうな気配を感じ取られるが早いか、急いで鼻の下のおヒゲをぐいとこすられたと言います。見事に生えそろったおヒゲは瞬時に舞い上がり、ひとつひとつが小さな「八平さま」となって、争いの地に飛んでいきます。小さな「八平さま」たちは、到着するや否や、眉をつりあげた女神様の耳のなかにそうっと息を吹き込んだり、地団太を踏む武神さまのおへそのなかで歌をうたったりしました。女神さまがきぃーっと叫ぶ代わりにほほほとお笑いになってしまったり、武神さまの地団太が下手くそなタップダンスになってしまったり、そのほかにも怒り狂った竜神さまが炎を噴き出す代わりにおならをもらしてしまったり、山をも動かす大巨神さまが、小さな「八平さま」を探して裸踊りを始めてしまったり、いやはや、小さな「八平さま」を送られたところ、間抜けで愉快な光景が繰り広げられない場所はひとつとしてなかったのであり、間抜けで愉快な光景のただなかで、争いを続けることは、どうにもこうにもできない相談だったのでございます。
何より間抜けで愉快な見ものは、豊かなおヒゲを皆、小さな「八平さま」にして飛ばしてしまわれた後の「八平さま」のお顔でありました。お鼻の下は真っ赤になり、「八平さま」はお目を真っ赤にして、しきりにくしゃみをなさいます。そのくしゃみの声の、「くちゅん」と愛らしいこと、かわいらしいこと、争いを注進に来る小さな生き物たちは、先ほどまでの心配顔はどこへやら、皆腹をかかえて笑いころげ、悩みも忘れて晴れ晴れとしてしまうのでした。
「八平さま」のおヒゲは不思議なことに、くしゃみを一つなさるたびにどんどん生えて見事に揃い、「八平さま」の間抜けで愉快な顔は、その場にいるものしか拝むことができなかったのでありまして、もしかすると生き物たちが「八平さま」にお仕え申したのは、自らの暮らしを守るため以上に、あの「八平さま」のお顔を拝したい一心であったかもしれません。

あなたさまの、この世にお生まれになったわけ、「間抜けの八兵衛」の謎が、おわかりになりましたでしょうか。どうぞ現代の「八平さま」として、お身の周りの争いを鎮め、皆を笑わせることで、「八平さま」の願いを叶えられます事を、衷心よりお祈り申し上げるものでございます。
by atohchie | 2003-04-01 06:19 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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