架空・お悩み相談室92『猫の復讐』

【お悩み】
我が家の庭をネコが我が物顔に通り抜け、時々うんちをされるのに辟易していましたが、1週間前、母ネコが2匹の子ネコを連れて、家の裏の薄暗いガラクタ置き場を住処にしているらしいのを発見しました。猫屋敷になっては大変!ってことで、追いかけ回したり、水をぶっかけたり、まあ、詳細は省きますが、数日間の奮闘の末、何とか出て行かせてホッとしたのです。ところが、昨日は玄関の植え込みに、今朝は玄関先の溝に、くさーいくさーい猫のうんちが。これは、復讐でしょうか。 (兵庫県/ホントは犬が飼いたいボク)

【お答え】
むかーし。小さな村に、ふたりのばあさんが住んでおった。団子っ鼻のふとったばあさんは、だんごばあさん、わし鼻のやせたばあさんは、わしばあさんとよばれておった。ふたりのばあさんの家は、背中あわせに立っておって、ふたりは幼い頃からそうやって背中あわせに住んでおったので、お互いのことはなんでも知っていて、なんも知らんかった。仲よしとは言えんかったが、やっぱり友だちであった。年をとって、このごろはめったに、行き来することもなくなっていたのだけれどもね。
ある日のこと、だんごばあさんが、家の裏のものおきに、ひさしぶりに入ってみると、そこに2匹の子猫が、しあわせそうにねそべる母猫のおっぱいを吸っておった。だんごばあさんはわしばあさんの家をこんこんと叩き、小さな窓から顔をのぞかせたわしばあさんに、
「あんたんちの裏に、猫がいるよ」と言った。
わしばあさんは、「そこはあんたんちの裏だろ」と言った。
「そうだけども、あんたんちの裏でもあるだろ」
「何を言ってんだい、あんたのものばかり置いて、勝手にものおきにしているくせにさ」
「あら、じゃあ、この立派なほうきは、誰のほうきだろうねえ。枇杷の木のつっかい棒にしようかねえ。このぼろっちいはしごは、あたしのものならへし折って、暖炉にくべてしまっていいのかねえ」
わしばあさんは、あわてて転がり出てくると、
「わかったよ。ここはあたしら二人のものおきさ」と言った。「で、あたしにどうしろっていうんだい」
だんごばあさんは、大事な団子っ鼻をうごめかせて言った。「追い出してちょうだいよ」
「なんだってそんなことをあたしにさせるんだい」
「だってねぇ、あんたは昔っから、追い出すことは名人だろ」
若い頃、大喧嘩した夫を家から追い出して、そのまま帰ってきてもらえなかった暗い過去を持つわしばあさんは眉をひそめたが、今となってはあんなのはさっさと追い出しておいてよかったと確かに考えているのを思い出して、自慢のわし鼻をうごめかせた。なんといっても、だんごばあさんは夫を追い出したこともないんだからね。
「そりゃあ、人間のオス相手の話さ。猫のメスとなると、これは厄介だよ」
「どうしてさ」
「あんた、知らないのかい。猫のメスは、そりゃあ執念深いんだ。追い立てたりなんかしてごらん、くさーい、くさい糞をそこらじゅうにばらまきまわるんだから」
「それは、復讐かい」
「そうともさ」
「それは厄介だね」
「厄介だろう、猫のくさーい糞ときたら、大事な鼻がひんまがるほど、くさいんだよ。まあ、あんたの鼻はそんな恰好だから、あの匂いを嗅いでどうなるのかは知らないがね」
だんごばあさんは、わしばあさんの皮肉に動じなかった。
「だからって、このまま猫が増えて、あたしらのうちが、猫屋敷になったらどうするのさ」
「そりゃあ迷惑だね」
「迷惑だろう」
わしばあさんは自慢のわし鼻を右手の親指の爪でこすりながら、しばらく考えた。
「ここは、よーく考えなくちゃいけないよ。あんた、あたしの家にあがって、お茶を飲まないかい」
「いいともさ」
そうして、長い間、一緒にお茶を飲んだこともなかったふたりは、また茶飲み友だちとなった。ばあさんたちの会議は、なかなか名案が出ないで回数だけが重なっていった。ふたりの家の裏では、小さかった子猫がどんどん育っていった。毎日、子猫の育つ様子を見ているうちに、二人の会議はだんだんこんな調子になっていった。
「やっぱり猫は、白に限るねえ。ほら、このかわいらしさ、みてごらん」とわしばあさんが言う。
「なにをいってんだい、猫はやっぱりぶちだともさ。おまけにこの子は片目が青い。金目の猫なんか、ありきたりさ」と、だんごばあさんが言い返す。
「ほう、そうかね、おまけにそっちのぶちはしっぽが短くて、あんたの鼻にそっくりだしね」
「そっちの白こそ、しっぽがまがってて、あんたの鼻にそっくりだね」
「あたしの鼻が曲がっているっていうのかい」
「そうともさ。ほら、ここんとこが、まがってるじゃないのさ」
気づくと白はわしばあさんに、ぶちはだんごばあさんに、すっかりなついておって、気づくと白はわしばあさんの庭に、ぶちはだんごばあさんの庭に、まわってくるようになり、気づくとそれぞれの台所の、暖炉の前に、ちょこんと座るようになったのだった。
今日も白を連れたわしばあさんは、だんごばあさんの家のあたたかな暖炉のそばに座って、ひざかけを編もうとしていたが、編み物をしているのか、白の遊び相手をしているのかわからないようになりながら、しみじみと言うのだった。
「まったく猫ってのは、あったかいもんだねえ。去年の冬までは毎晩、湯たんぽ二ついれなきゃ、足も腰も寒くて眠れなかったのに、白がきてからっていうもの、湯たんぽなんざ、ものおきに放りだしたまんまになってるよ」
だんごばあさんも、ぶちの背中をなでながらしみじみと言う。
「家が猫屋敷になるだなんて、心配しなくてよかったねえ。あたしのぶちは、よその猫がうちの庭に入ってこようとするとふーっと毛を逆立てて、追い払ってくれるんだよ」
「あたしの白だってそうさ。このごろは、よその猫なんて、かげもかたちも見えないよ」
「それにしてもあのとき、猫を追い出したりなんぞしないで良かったじゃないか。あんたの言う通り、母猫を追い立てたりしたら、あたしら、今頃、きれいな猫を抱っこしたり、湯たんぽ代わりに使ったりなんかできなくて、毎日、くさーい、猫のふんを掃除して回ってたはずなんだよ」
「何を言ってんだい、追い出しちゃだめだって言ったのは、あたしだよ」
「そうだったかね」
「そうさ。あたしが得意なのは、人間のオスを追い出すことだけだって、ほら」
「ああ、そうだったね。あんたが猫のメスを追い出す名人じゃなくて、良かったねえ」
「そうだろう」
「ああ、そうだねえ」
ぶちを抱いただんごばあさんと、白を抱いたわしばあさんは、やっぱり友だちだった。それも今では、仲よしと言っていい友だちだった。一人暮らしが長くなって、寂しいっていうのがいったいどういうことだったかも考えなくなっていたふたりのばあさんだったが、こうして猫と暮らし、家の裏に茶飲み友達を持ってみると、もう、前の暮しに戻るなんてことは、とうてい考えられなかった。

ところで、猫のうんちでお困りのあなたは、ご希望通り、犬を飼われてはいかがでしょうか。
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by atohchie | 2003-04-01 06:05 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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