架空・お悩み相談室85『自分の性格が嫌でたまりません。』

【お悩み】
阿藤様
自分の浅はかな性格が嫌でたまりません。自慢話はしてはいけない、人を馬鹿にしてはいけない、とあれほど親に言われて育ったにも関わらず、気がつくと鼻高々に自分を誉めあげてしまうのです。親が私を褒めてくれなかったせいでしょうか。ああ、また人を責めてしまった。このままでは世間の鼻つまみものになってしまいます。こんな私をお救いください。(東京都/子狸たぬきさんのお悩み)

【お答え】
自己嫌悪というのは厄介なものですね。自慢話はいけない、人を見下してはいけないと、そんなにわかっているならば、ついついやってしまう自分がそんなに嫌ならば、やめればいいじゃない、と言うは易し行うは難し、なぜに私たちの心はこうまで我々の意に背くのでしょう!不愉快で、悲しいだけの自己嫌悪に、なぜ私たちは果てしなく陥ったりなどするのでしょう!

自己嫌悪、つまり、自身の意に背く自分についての悩みは、人類発生と同時に我々の祖先をもいためつけた大きな苦しみであったようです。たとえば、現在、世界最古の壁画と言われているのは、スペイン北部で発見された洞窟壁画に描かれた赤い丸、ならびに手形の絵でありますが、もちろんさまざまな異説のある中でも、かなり有力視されている説の一つに、この丸は、4万年以上も昔の人類(それはネアンデルタール人であったかもしれません)が、やはり心の問題で苦しんでおり、自らの心を自らの手で整えることのできなかった太古の人の苦しみが、このような表現になって残されたのだという説があるくらいです。

いったいにあらゆる生物において、無用の長物と見えるのにもかかわらず、連綿と続く歴史の中で受け継がれ、形を残してきた器官というものは、必ずなにがしかの欠くべからざる機能をもっていることが、日進月歩の研究によって次々に明らかになっております。ヒトの例を挙げますと、尾てい骨は体内にあるために意識されにくいのではありますが、実は、他の動物の立派な尻尾と同様に自在に動いて、力学的に非常に難しい、人間の二足歩行における高度のバランスをとっているのですし、耳たぶは、四肢といわず内臓と言わず身体の全てにつながる、ある種のスイッチのようなものが集合していて、実は、人は何らかの困難にぶつかった時、耳たぶを無意識に触ることによって多くの事故や不快な症状を未然に防いでいるのです。このようなしくみが、人の心にも備わっている、その一つが自己嫌悪であります。

自己嫌悪とは、心底感じている本人にとってはは、ひたすら辛く、悲しく、腹立たしいばかりの忌むべきものではありますが、実はあっと驚く機能をもっています。実は自己嫌悪とは、人の心の働きではなくて、ある種の分泌液なのです。この液は、現在の科学ではどの臓器から分泌されるものかがはっきりと解明されてはおりませんが、自己嫌悪を強く覚える時、確かに体内のどこかから出ているものであって、関節の動きと深くかかわっているという説、胃液の分泌に関わるという説、自律神経に作用するという説、血液の循環を促すという説、視野領域になんらかの影響を与えているらしいという説、汗腺の働きを活発にするという説、それらの全てが、または幾つかが複合的に関係し合っているという説など、たくさんの説がありますが、いずれの説に立っていても、自己嫌悪そのものが、人体の維持に必要欠くべからざるものであるという一点においては認識を同じくしており、それゆえに、自己嫌悪とはいかに論理的に矛盾しており、やめようと思えばやめられるはずのように見えていても決して人の心の持ちようでは消し去ることができないのだということもまた、衆目の一致するところなのです。

このような歴史的、また科学的見解を参照しつつ、あらためて自己嫌悪というものについて考えてみますと、それが私たちの生命維持に必要欠くべからざるものである以上、自らを不快にするものとして軽んじ、遠ざけるべきではないのでしょう。発作的にそれが高まった時には、自らの体内で、関節、胃、自律神経、血流、視野、汗腺、そのほかまだ学説として挙げられていない機能も含め、いずれがいかようにして有機的に関係をもちつつ力強く働いているのか、そのことにより、どのように自らの身体が変化しているのかをつくづくと観察することがよろしいのではないかと思います。努力が実を結んだ暁には、五〇〇〇〇年に渡らんとする人類の永の苦しみが無用のものではなかったこととを自ら体感し、心からの納得が訪れると共に、いまを生きる人類すべてをこの苦しみから解き放つ救世主となることも、できるかもしれませんし、そうならないまでも、苦しみにのみ心の焦点を合わせ、果てしない自己嫌悪の沼にはまりこんでいくことからは、逃れられるのではないかと存じます。
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by atohchie | 2003-04-01 05:39 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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