架空・お悩み相談室84『いただきものが重なってしまいます』

【お悩み】
もうすぐ、お中元シーズンですね。ここ数年、不思議なことに届きますものが無茶苦茶 重なってしまうのです。昨年夏は 桃 桃 桃桃の桃責め、その前の夏は素麺 素麺 素麺攻撃、またぁ、とため息つきながら、くださる方には感謝してるのですけれど、、、。ちなみにお歳暮のときも、シクラメンの鉢植えが五個、なんか、どこかのシンジケートから指令でもと考えたくなる偶然ぷりです。この謎 解決の程 よろしくお願いいたします!(神奈川県/マダム クララさんのお悩み)

【お答え】
エックス氏はアルファ夫妻に若い頃に世話になり、今は独立して立派な店を構える中年の男である。恩義に篤いエックス氏は、20年を越える長い間、アルファ家への進物を欠かしたことはない。毎年あれこれと考えては、奇をてらわず、定番と言われる品の中から、よりすぐりを贈り続けてきたエックス氏は、数年前の夏、アルファ夫妻の店の得意先であるエム夫人から、妙な噂を聞いた。
――なんだかね、今年のお中元は蟹缶ばかりが届いたのですって。蟹缶は大好きだし、お気もちは嬉しいけれど、さすがに5箱も6箱も続くとねぇ……奥さん、いつものニコニコ顔だったけど、あれは相当困ってらしたわ。
エックス氏もまた、アルファ家に蟹缶を送った人物であることは露ほども想像していないエム夫人は人のよい丸顔でそう言うのだった。
エックス氏は当然、しまった、と思いながらもどこか、心の奥底に懐かしい、嬉しい気持ちがこみ上げることに気づかずにはいられなかった。アルファ夫妻の店で働いていた青年の頃、アルファ夫人は3人の幼い子供をかかえ、コマネズミのように働いていた。にっちもさっちもいかない大変な時にもアルファ夫人は笑顔を絶やさず、しかし本当に困った時の笑顔には独特のものがあった。まだ商売の右も左もわからないままアルファ氏の下で働いていたエックス氏は、自分自身が彼女にその笑顔を浮かべさせることもあり、そうしたときには申し訳なくて身の縮まる思いの半面、親代わりのアルファ夫妻の愛情をひしひしと感じることができて、どこかに嬉しさを感じてもいたのを、思い出してしまったのだ。
そもそもエックス氏は幼い頃から、好きな女の子に意地悪をしては泣かせてしまう、例のタイプの男であった。長じてもその性癖は根本的には改まることがなく、そこがまた、口の悪いアルファ氏と気が合った要因でもあっただろう。
というわけで、その夏から、エックス氏の密かな楽しみは始まった。暮れへ向け、アルファ家周辺のいくつもの家庭へ探りを入れ、進物の中身に困っている者があればそれとなく「アルファ夫妻の意向」を伝え歩いた。まるでどこかのシンジゲートの一員が、善良な市民の間を暗躍するかのようであった。エックス氏はそういったことが実に巧みなのであった。
――アルファさんのとこ、お中元は蟹缶だったけど、お歳暮ではハムが重なって重なって、奥さんまたまた大変なんですって。冷蔵庫も冷凍庫もいっぱいで、毎食毎食、ハムサンドやらハムカツやら、ハムステーキやらにして食べ続けてるそうよ。
エム夫人がのんきそうな丸顔をやや紅潮させて、
――不思議なことってあるもんよねえ。どうしてそんなに進物が重なるんだろう?
と感嘆した時、エックス氏の心が喜びに震えたことは、想像に難くない。

と、まあそのような人物の暗躍は、なかなか考えにくい事態ではあります。しかし、「考えにくい」こと、必ずしも「ありえない」こととは限りません。つまり、あるいは、こうしたことはあるかもしれません。少なくとも、ないと断言はできません。私の手元には、エックス氏の今年の夏の作戦は、アルファ家に冷菓を集中させることという情報が既に届いております。ゼリーであればまだしも、アイスクリームだと大変に困りますね。
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by atohchie | 2003-04-01 05:24 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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