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宙に浮いた部屋で【なにもしてない】

さて水曜日は本の話。

これは私の記憶の中の、本の話です。
昨日読んだ本でさえ、思い出して語ろうとすると筋はごちゃごちゃ、
他の本と混じったり、存在しないエピソードが紛れ込んだり、
まったく正確ではないことが多いのですけれど、
この日記ではあえて、読み直して確認したりせずに、
間違っているかもしれないことを書きます。勝手な本の話です。


その頃わたしは小さな部屋のたくさんある、小さなマンションに暮らしていたのです。
ガラスのドアを入ると吹き抜けになっていて、1階と2階は階段の両側に部屋があり
最上階の3階だけはずらりと部屋が並んでいて、
2階分の吹き抜けの上にある、3階の真ん中の部屋が、わたしのうち。
つまり、わたしの部屋は、宙に浮いた部屋だった。




その部屋にはほんの短い間しか住んでいなかったけど
実に体調が悪かったのだ。
この小説は、そんなわたしの、まるでバイブルのような、本でした。
その頃わたしは所属していたカンパニーを抜けて、独りになっていて、
そしてとても体調が悪くて、なにもできなくて、とても困っていました。
笙野頼子さんの「なにもしてない」とわたしの「なにもしてない」は
やっぱり根本的に違っているような気がしたし
『なにもしてない』を繰り返し読めば、
なにかできるようにはなるかもしれないなんて、思っていたわけじゃない。
それでもあの本は、あの時期、わたしのバイブルだった。
あの本の中に閉じこもって(そんな感じがしたのです)いると、
「なにもしてない」ことを、とても楽しめたのです。

そう言えば、あの部屋でわたしが書いたのが、『中二階な人々』、
それから、あの部屋に一人で住んでいることができなくて、
家族のそばとあの部屋を行き来しながら書いたのが、初めての小説『空と丘の間で』。
いずれも、いかにも宙に浮いた部屋に住んでいる人が書きそうな作品名であることに
たった今、気づきましたことよ。いやあ、なんの自覚もなかった。驚いた。
宙に浮いた部屋には、もう二度と暮したくはないけれど、
地面になるべくくっついた部屋に、暮らしたいと思っているけれど
人生の一時期、宙に浮いて暮らしたことは、楽しいことだったのかもしれないなあ。
by atohchie | 2013-05-08 20:44 | 水曜日は本の話


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


by atohchie

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