架空・お悩み相談室81『嵐が来ると助けに行かなくてはと思ってしまいます』

【お悩み】
嵐が来ると助けに行かなくては思い、つい、雨合羽を着て長靴を履いて待機してしまいます。
しかし、だれからもヘルプの連絡ないうちに嵐が去ると、良かったと思いながらも、もしかしたら助けてのサインを自分は見逃してしまったのではないかと自分で自分を責めてしまいます。
嵐よ退散!かぁぁぁっ!去れい!!!と土砂降りの中叫ぶこと数十回。
しかし、雨が上がり始めた暗い空をみて、大きな不安が心を締め付けてきます。
だれも、私を呼んでいなかったのだろうか・・・・私は、戦わなくてはいけなかったのではないか。
逃げたのではないか。なんという卑怯な奴なのだ。ゆでたまごに頭をぶつけて血だらけになって修行をしなければと思うのです。でも、そこで大きな疑問が。なぜ私は、ゆでたまごにおでこをぶつけることにこだわるのだ。
いったいどこに行けばよかったんだ。ゆでたまごで修業はできるのか。
今晩もまたそのことで頭のなかがグルグルしてるのです。
先生、ゆでたまごの謎ととるべき道を教えて下さい。
(ヒーロ願望が抜けない厚木のハンサム君のお悩み)

【お答え】
むかし、むかし、と言っても、お前のばあちゃんのばあちゃんは、まだ生きていたかもしれないくらいの、むかし。
山の麓のある村に、ッゲディリオブという名のデクノボウのような男が住んでおった。デクノボウのような、というのは、図体ばかりでかい、大飯食らいの怠けもの、という意味だが、ッゲディリオブは怠けものではなかった。怠けものではなかったのだが、働き者というのとも違うのだった。
冬の間、村人たちは毎朝雪下ろしをし、雪かきをしてから家に戻り、朝飯前から縄をない、糸を紡ぎ、籠や蓑や笠を編んでせっせと働く。ッゲディリオブは夜明け前から飛び起きて、せっせと窯に火を焚いて握り飯を作り、でかいのを3つばかりむしゃむしゃと食ってから山のてっぺんまで駆け上っていく。村人たちは慣れっこになっているので驚きやしない。誰にでも聞いてみれば、にやりと笑って、「ッゲディリオブは、夜の間に雪崩に巻き込まれた旅人を助けに行っているのさ」とこたえるんだよ。「ゆうべ、雪崩があったのかい、誰か助けを求めに来たのかい?」「さあてな、雪崩はあったかもしれないし、なかったかもしれないね。旅人なんか、一人も通ってないかもしれないよ。だが、ッゲディリオブはああやって、いつも瀕死の旅人を救いに走っているのさ。今までッゲディリオブが誰か一人でも、命を救ってやったという話は聞かないがね」
夏になると、山には時々嵐が来る。村人たちは嵐を呼ぶ黒い雲がちらりとでも見えたらすぐに、畑を見回り、採り入れができるものは少しでも採りいれたり、牛小屋のつっかい棒を確かめたり、せっせと備えをする。ッゲディリオブは「嵐が来るぞ!」の声を聞くとせっせと窯に火を焚いて握り飯を作り、でかいのを3つばかりむしゃむしゃと食ってから蓑笠をしっかり身にまとって山のてっぺんまで駆け上っていく。いよいよ風がごうごう吹き、雨がざんぶりざんぶりと降ってくると、村人たちは皆囲炉裏の傍に肩を寄せ合って、耳をすます。雨と風の音の合間に、ッゲディリオブの声が聞こえるというんだ。「嵐よ退散!かぁぁぁっ!去れい!!!」いや、たぶんお前には聞こえやしまいよ。昔の村人というのはどえらく鋭い耳をしていたんだからね。ともかく、嵐が過ぎると山のてっぺんから、げっそり痩せたッゲディリオブが下りてくる。村人たちは皆、ッゲディリオブの肩を抱いたり、背中を軽く叩いたりして、「ごくろうさん」「ありがとよ」と声をかける。そんな村人たちの、誰にでも聞いてみれば、にやりと笑ってこう言うよ。「ッゲディリオブはゆうべ、一晩中嵐をやっつけるために闘っていたのさ。たいしたやつだよ。ッゲディリオブが生まれる前だって、嵐はたいてい、一晩しのげばやむもんだったらしいがね」
ッゲディリオブはそうやって、いつでも命がけで頑張っているのだった。そうして村人たちは、そんなッゲディリオブを大切に、誇りに思っていたのさ。誰も、固茹で卵をッゲディリオブにぶつけて、「やーい、デクノボウの茹で卵野郎!」なんてからかうやつはいなかった。そうではなくて、ッゲディリオブの方だったんだよ、いつもいつも、頑張っても頑張ってもただ一人の命も救えないでいる自分を恥ずかしいと思って、茹で卵を作っては頭をぶつけ、「デクノボウの茹で卵野郎!」と叫んではむしゃむしゃ食っちまっていたのはね。誰にでも聞いてみればいいよ、にやりと笑ってこういうんだから。「ッゲディリオブはああやって、頭をかち割っちまおうとしてるのさ」「卵で頭が割れるのかい?」村人は急に、真顔になって言うだろうさ。「とんでもない!割れるんだったら俺たちが、ッゲディリオブにあんなことをさせておくわけがないだろう。ッゲディリオブはこの村の、大事な大事な宝なんだからな」
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by atohchie | 2003-04-01 05:01 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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