架空・お悩み相談室72(後篇)『「おさんどん」の本当の意味は?』

【お悩み】
辞書を調べてみましたところ、「おさんどん」とは、三度三度台所にたつことから、台所仕事のことを指すのだそうです。確かにそのような意味として日常用いておりました。辞書には、「お三どん」とも書かれ、まかないの女中さんを「おさん」と呼んでいたとも書かれています。
でも、なにかしっくりこないような気もするのです。こういうときは、こちらの道場にお尋ねするのに限ります。
「おさんどん」の本当の意味を教えてください。(高知県/はちきんさんのお悩み)


【お答え】
(このお話は、前回のお答えの続きです。前篇はこちら/中篇はこちら)

というわけで、炊事、掃除に洗濯、縫物、織物、繕い物に編み物、刺繍、畑仕事に喧嘩の仲裁、色恋沙汰の後始末から仲人に祝言の世話、踊りに謡い、語りに書き方に計算、庭木の剪定、屋根の修理、病人の看病に葬式の出し方、熊やタヌキ、カラスやトンビ、押し売りの追っ払い方、面倒事の断り方、メジロの捕まえ方にホトトギスの鳴かせ方、燕の巣の支えの作り方、障子の貼り方、シロアリ駆除の仕方、犬のてなづけ方にクジラのさばき方、カツオの釣り方、ドジョウのすくい方、およそ人の営みの中で、十姉妹の智恵の及ばぬところはとんとなかったくらい、婆さんどもはなんでもそりゃあ見事にこなして村人たちの尊敬を集めておった。ほい。やれ、この年寄りよ。それがある日、隣りに住んでおったお菊どんが庭に出てみると、十姉妹の家から争う声が聞こえてくるではないか、やれ、この年寄りよ! あわてて生け垣のそばに身を隠し、そっと耳を傾けると、どうやら誰かがおいつどんを呼び、おいちどんが自分が呼ばれたと思って返事をしたら、いや、あたしの呼んだのはおいちどんじゃない、おいつどんだよと言ったところで別の誰かがいや、確かにあんたはおいちどんと言ったじゃないか、いや、言わない、いや、あたしも聞いたよ、おいちどんと言った、いや、おいつどんと言ったってば、あたしにはおいつどんと聞こえたね、おいちどんだってば、おいつどんだってば、姉妹がおいちどん派とおいつどん派に分かれ、大騒ぎになっていたからおったまげた。これまで婆さんたちは皆が好き勝手にしゃべっていても、皆が皆、どの話もきちんと耳に入れ、どの話にも相槌を打ち、誰かが仲間外れになったとか、あたしゃ聞いてないとか、そんなもめごとをただの一度も起こしたことがないので村人たちの尊敬を集めておったのよ、やれ、この年寄りよ。お菊どんはあんまりびっくりしたのでぬき足差し足家に戻り、誰にもこのことは秘密にしておった、はあ。ところがそれがどうもけちのつきはじめであったのじゃ、それから度々、十姉妹の家からは言い争う声が聞こえるようになり、やれ、おいつどんが米を洗う前に、おななどんが釜を炊いてしまっただの、やれ、おむつどんが箒をつかったあとに、おようどんがはたきをかけてしまっただの、やることなすことちぐはぐになってしまったようであった。はあ。しばらくして、十姉妹たちはひとりがつまずき、ひとりが熱を出し、ひとりが井戸にはまり、ひとりが田んぼに転げ、ひとりが牛に蹴られ、ひとりが山で迷い、ひとりが茸にあたり、ひとりがこえだめに落っこち、ひとりが鍬で足を切って、ひとり、またひとり、とうとう九人までが床についてしまった。やれ、やれ、この年寄りよ!そうして、ひとり残ったのが、おさんどんであったのさ。やれ、この年寄りよ。さあ、どうなる。やれ、この年寄りよ。
ほい おいちどんは あくびして やれ
おさんどんは 水を汲み ほい
おふうどんは 背中かき やれ
おさんどんは 薪を割り ほい
おようどんは せっちんへ やれ
おさんどんは かまど炊き ほい
おいつどんは 寝返りだ やれ
おさんどんは 米あらい ほい
おむつどんは べそかいて やれ
おさんどんは こうこ切り ほい
おななどんは 咳をして やれ
おさんどんは 飯を炊き ほい
おやつどんは 屁をこいて やれ
おさんどんは 汁を煮て ほい
おここどんは ねごと言い ほい
おさんどんは 魚やき ほい
おとうどんは おくび出し ほい
おさんどんは 膳ならべ ほい
あっぱれおさんどんはたったひとりで九人前の仕事をして、姉いもうとの食事の支度から洗濯掃除、縫物織物畑仕事、村の寄り合いに面倒事の片付けまで、見事にやってのけたのさ。やれ、この年寄りよ!!そうしておさんどんは姉をひとり、いもうとをひとりと順に見送って最後は一人になり、それからなおも千年だか百年だかひとりで暮らしたという話だが、その最後はいったいどういうことになったのか、知る者はおらん。はあ。

というのが、世界中からかき集めてきた『おさんどんの物語』のかけらを、どうやらひとつのつながりになるようつなぎあわせた小さなお話です。そこでおさんどんの本来の意味とは、といいますと、様々のことが言われております。いわく、おさんどんとは、あらゆる人の営みの中でももっとも大切な、食に関する仕事を言うものである。またいわく、おさんどんとは、今で言うカリスマ主婦をさす。あるいはいわく、おさんどんとは、若い頃と年をとったあとでまったく正反対の性格をあらわす人のことである。はたまたいわく、おさんどんとは、いわゆる大器晩成型の人のことである。またいわく、おさんどんとは、何事も終わりが来るまでは、判断するということはできないものであるという意味である。またあるいはいわく、おさんどんとは、そもそも何事にも、終わりということは決して言えないものであるという意味である。など、など、など、やれ、この年寄りよ!
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by atohchie | 2003-04-01 03:43 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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