架空・お悩み相談室64『間引きが苦手です』
【お悩み】
園芸のお話です。
種から蒔いて、収穫やら、開花やらを楽しむ素晴らしさを味わおうと思うと、
あの、間引きというやつをせねばなりません。
私はどうもこれが苦手で、間引かれるちっちゃい双葉なんかが健気でもったいなくて、
絹のような根っこをつけたそれをどこかに植えてあげたくなるのです。
もちろん、大胆に間引いちゃうなんてことは到底できず、
せっかくの収穫も開花もいまいちです。
単なるケチかもしれませんが。でも、悩んでます。
どうしたらよいでしょう。(大阪府/園芸初心者さんのお悩み)
【お答え】
むかし、パローとギローという兄弟がいました。
ふたりは立派な若者になると、父さんと母さんから、隣りあった畑をひとつずつもらい、隣り合った家を建てて住むようになりました。
初めの年、パローとギローは父さんから種をもらい、母さんに教わった通りに播きました。しばらくしてたくさんの芽が出てきますと、パローはせっせと畑で腰をかがめ、良い芽を選んで残りを間引いていきました。ギローはせっせと畑で腰をかがめ、ひとつひとつの芽にやさしく声をかけ、子守歌を歌ってやります。
パローは言いました。
「おい、ギロー、なにを遊んでいるんだ。そんなに混み合ったままに放っておいたら、ろくに育たないぞ、すぐに間引けよ」
「だって、パロー兄さん、どの芽も精一杯に光を受けて、喜んで空を仰いでいるのだもの、かわいそうで間引くなんてできやしない」
「何をばかなこと言ってんだ」
「兄さん、その引っこ抜いた芽、どうするんだい」
「うっちゃっておくさ」
「しおれて死んでしまうじゃないか」
「かまわないよ」
「じゃあ、兄さん、その芽をぼくにくれないか」
「ああ、どうにでもしたらいい」
ギローはパローの抜いた芽を大事そうにうけとると、うねの間と言わずあぜ道と言わず、ついには川原の砂地にまでも、せっせと植えて回ります。
「ギローはばかだなあ、そんなところに植えて、いい作物になるわけもないのにさ」
やがて季節は巡り、とりいれの季節になりました。ギローの畑はほんの少しの実りしかありません。あぜ道や川原にうえた芽は、ほとんどが花も咲かせず枯れてしまいました。
パローの畑は大豊作。採れて採れて仕方がないので、パローはギローにも、作物を分けてやりました。
次の年、パローが畑で種をまいていると、ギローは畑で歌をうたっています。
「おい、ギロー、種まきをしろよ。赤い肌のあの樹に三つ花が咲いたら播きどきだと、母さんが教えてくれただろ」
「うん、いいんだ。ぼくはパロー兄さんの間引いたのをもらうから」
「ギローはばかだなあ、去年はおれの間引き芽を植えて回って、みんな枯らしちまったくせにさあ」
「うん、いいんだ。今年は畑に植えるから、少しは実ってくれるだろうよ」
やがて季節は巡り、とりいれの季節になりました。ギローの畑はやっぱりほんの少しの実りしかありません。パローはまた、作物を分けてやりました。
いろんな人が気の毒がって、パローに言いました。
「あんたは人が良すぎるよ、怠けものは困らせてやった方がいいのに」
「まあ、いいさ。あいつがどういうやり方で畑をやろうと、ぼくはぼくのやり方でやるまでさ」
いろんな人が不思議がって、ギローにききました。
「なんで習った通りに仕事をしないんだい。いつも兄さんに食べ物を恵んでもらって、悔しくはないのかい?」
「どうしてだい。兄さんの畑はきっと作物が採れすぎるんだ。もらっても兄さんはちっとも困らないし、ぼくも困らないよ」
そうしてたくさんの季節がめぐり、ギローは歌のうまい娘を妻にして、二人の子を育てました。パローは歌のうまい娘の、踊りのうまい姉を妻にして、二人の子を育てました。
それからさらにたくさんの季節がめぐり、やがてパローとギローに人生の終わりのときがやってきました。
パローのところに父さんと母さんが迎えに来て言いました。
「パローや、おいで。お前たち兄弟が仲良くしていたので、わたしたちは嬉しかったよ」
「はい、父さん、母さん。弟が喜んで食べてくれたので、ぼくは畑が上手になったと思います」
ギローのところにも父さんと母さんが迎えに来て言いました。
「ギローや、おいで。お前たち兄弟が仲良くしていたので、わたしたちは嬉しかったよ」
「はい、父さん、母さん。ぼくは賢い兄さんが本当に大好きでした」
パローとギローは、二人とも、そうしてとても幸せだったのです。
園芸のお話です。
種から蒔いて、収穫やら、開花やらを楽しむ素晴らしさを味わおうと思うと、
あの、間引きというやつをせねばなりません。
私はどうもこれが苦手で、間引かれるちっちゃい双葉なんかが健気でもったいなくて、
絹のような根っこをつけたそれをどこかに植えてあげたくなるのです。
もちろん、大胆に間引いちゃうなんてことは到底できず、
せっかくの収穫も開花もいまいちです。
単なるケチかもしれませんが。でも、悩んでます。
どうしたらよいでしょう。(大阪府/園芸初心者さんのお悩み)
【お答え】
むかし、パローとギローという兄弟がいました。
ふたりは立派な若者になると、父さんと母さんから、隣りあった畑をひとつずつもらい、隣り合った家を建てて住むようになりました。
初めの年、パローとギローは父さんから種をもらい、母さんに教わった通りに播きました。しばらくしてたくさんの芽が出てきますと、パローはせっせと畑で腰をかがめ、良い芽を選んで残りを間引いていきました。ギローはせっせと畑で腰をかがめ、ひとつひとつの芽にやさしく声をかけ、子守歌を歌ってやります。
パローは言いました。
「おい、ギロー、なにを遊んでいるんだ。そんなに混み合ったままに放っておいたら、ろくに育たないぞ、すぐに間引けよ」
「だって、パロー兄さん、どの芽も精一杯に光を受けて、喜んで空を仰いでいるのだもの、かわいそうで間引くなんてできやしない」
「何をばかなこと言ってんだ」
「兄さん、その引っこ抜いた芽、どうするんだい」
「うっちゃっておくさ」
「しおれて死んでしまうじゃないか」
「かまわないよ」
「じゃあ、兄さん、その芽をぼくにくれないか」
「ああ、どうにでもしたらいい」
ギローはパローの抜いた芽を大事そうにうけとると、うねの間と言わずあぜ道と言わず、ついには川原の砂地にまでも、せっせと植えて回ります。
「ギローはばかだなあ、そんなところに植えて、いい作物になるわけもないのにさ」
やがて季節は巡り、とりいれの季節になりました。ギローの畑はほんの少しの実りしかありません。あぜ道や川原にうえた芽は、ほとんどが花も咲かせず枯れてしまいました。
パローの畑は大豊作。採れて採れて仕方がないので、パローはギローにも、作物を分けてやりました。
次の年、パローが畑で種をまいていると、ギローは畑で歌をうたっています。
「おい、ギロー、種まきをしろよ。赤い肌のあの樹に三つ花が咲いたら播きどきだと、母さんが教えてくれただろ」
「うん、いいんだ。ぼくはパロー兄さんの間引いたのをもらうから」
「ギローはばかだなあ、去年はおれの間引き芽を植えて回って、みんな枯らしちまったくせにさあ」
「うん、いいんだ。今年は畑に植えるから、少しは実ってくれるだろうよ」
やがて季節は巡り、とりいれの季節になりました。ギローの畑はやっぱりほんの少しの実りしかありません。パローはまた、作物を分けてやりました。
いろんな人が気の毒がって、パローに言いました。
「あんたは人が良すぎるよ、怠けものは困らせてやった方がいいのに」
「まあ、いいさ。あいつがどういうやり方で畑をやろうと、ぼくはぼくのやり方でやるまでさ」
いろんな人が不思議がって、ギローにききました。
「なんで習った通りに仕事をしないんだい。いつも兄さんに食べ物を恵んでもらって、悔しくはないのかい?」
「どうしてだい。兄さんの畑はきっと作物が採れすぎるんだ。もらっても兄さんはちっとも困らないし、ぼくも困らないよ」
そうしてたくさんの季節がめぐり、ギローは歌のうまい娘を妻にして、二人の子を育てました。パローは歌のうまい娘の、踊りのうまい姉を妻にして、二人の子を育てました。
それからさらにたくさんの季節がめぐり、やがてパローとギローに人生の終わりのときがやってきました。
パローのところに父さんと母さんが迎えに来て言いました。
「パローや、おいで。お前たち兄弟が仲良くしていたので、わたしたちは嬉しかったよ」
「はい、父さん、母さん。弟が喜んで食べてくれたので、ぼくは畑が上手になったと思います」
ギローのところにも父さんと母さんが迎えに来て言いました。
「ギローや、おいで。お前たち兄弟が仲良くしていたので、わたしたちは嬉しかったよ」
「はい、父さん、母さん。ぼくは賢い兄さんが本当に大好きでした」
パローとギローは、二人とも、そうしてとても幸せだったのです。
by atohchie
| 2003-04-01 02:00
| 缶詰実験室(お芝居への道)
阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。
by atohchie
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阿藤智恵NEWS
●脱原発世界会議に賛同します。安心できる明日を子どもたちに。
●阿藤智恵サイトを更新しました更新日:2013年12月31日(火)
◆これからの阿藤智恵◆
1月19日
「第3回JAZZ&お話ライブ」
1月23日
「どこそら会」
3月8・9日
「『えんげき』のじゆうじかん」の
小さなお芝居の会と「ちえよむ会」
●戯曲集『十六夜の月』を出版しました。
ご購入は阿藤智恵への直接注文または書店にてご注文ください。また、ネット書店でも購入できます。
●受賞しました。
加藤健一事務所vol.83 「シュぺリオール・ドーナツ」
念願の翻訳デビュー、果たしました!
→本作品で、第5回小田島雄志・翻訳戯曲賞をいただきました。加藤健一さん、演出の大杉祐さんはじめ公演座組の皆さん、また、翻訳作業にお力添えを下さった多くの方々に、心から感謝します。
●戯曲『死んだ女』が雑誌【テアトロ】2013年1月号に掲載されました。
★『どこまでも続く空のむこうに』の劇評をいただきました!!大変な力作です。ぜひご一読ください。2012.4.19
こちらをクリック=
劇評サイトWonderland
●戯曲『どこまでも続く空のむこうに』が雑誌【テアトロ】2012年4月号に掲載されました。
●小説『マチゾウ』で同人誌【突き抜け4】に参加しました。
ご購入はこちらへ(「阿藤サイトから」と一言お書き添えくださいませ)。
★『曼珠沙華』の劇評をいただきました!!
ぜひご一読ください。2011.10.26
こちらをクリック=
劇評サイトWonderland
●公演終了しました。
Pカンパニー番外公演その弐「岸田國士的なるものをめぐって~3人の作家による新作短編集~」竹本譲さん、石原燃さんと、短編を1本ずつ書きました。私の作品タイトルは『曼珠沙華』です。
★雑誌『テアトロ』10月号に三本そろって掲載されています。
●連載エッセイ「本日も行ったり来たり~トハナニカ日記~」
雑誌【テアトロ】2012年1月号に最終回が掲載されています。
●日記のお題、ください!
阿藤への質問、お悩み相談、どのようなことでもどうぞ。心こめて書かせていただきます。
お題は阿藤へのメール、または、日記へのコメント(どの記事につけてくださってもOKです)でどうぞ。
●戯曲『十六夜の月』が雑誌【テアトロ】2011年7月号に掲載されました。
●小説『ツヅキ2011』で同人誌【突き抜け3】に参加しました。
ご購入はこちらのフォームへ(「阿藤のブログから」と一言お書き添えくださいませ)。
●戯曲『バス停のカモメ』が雑誌【テアトロ】2010年1月号に掲載されました。
●戯曲『しあわせな男』が雑誌【テアトロ】2008年10月号に掲載されました。
●石井ゆかりさんの
「石井NP日記」で
インタビューを受けました。
こちらの
「ロードムービー・その1」で5番目にインタビューされています。
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1月19日
「第3回JAZZ&お話ライブ」
1月23日
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小さなお芝居の会と「ちえよむ会」
●戯曲集『十六夜の月』を出版しました。
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→本作品で、第5回小田島雄志・翻訳戯曲賞をいただきました。加藤健一さん、演出の大杉祐さんはじめ公演座組の皆さん、また、翻訳作業にお力添えを下さった多くの方々に、心から感謝します。
●戯曲『死んだ女』が雑誌【テアトロ】2013年1月号に掲載されました。
★『どこまでも続く空のむこうに』の劇評をいただきました!!大変な力作です。ぜひご一読ください。2012.4.19
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●小説『マチゾウ』で同人誌【突き抜け4】に参加しました。
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ぜひご一読ください。2011.10.26
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★雑誌『テアトロ』10月号に三本そろって掲載されています。
●連載エッセイ「本日も行ったり来たり~トハナニカ日記~」
雑誌【テアトロ】2012年1月号に最終回が掲載されています。
●日記のお題、ください!
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