架空・お悩み相談室62『自分の部屋から脱出できない』

【お悩み】
実は、毎朝自分の部屋から脱出するのにも苦労しています。服はどこだメガネはどこだ鍵はどこだどうすれば荷物の中から朝ご飯を取り出せるか等々…暗号がない分ゲームより難易度も高いし時間がない分忘れ物などのバッドエンドは地獄です。これにも攻略サイトがあればいいのですが…ご存知ありませんか?(東京/こけまるさんのお悩み)

【お答え】
存じておりますとも。
攻略サイトは、ございます。

しかし、その説明を始める前に、理解しておいていただきたいことがあります。
およそこの世にあるものはすべからく、層をなしております。
同じ一つの現象、同じ一つのものであっても、どの層で見るかによって、様々な見え方がなされます。

少し乱暴なたとえ話のようなことになりますが、あなたという一人の人が、こけまるさんであり、地球人であり、ホモ・サピエンスのモンゴロイドのメスであり、東京の生活者であり、21世紀人であり、誰かにとっては友人であり、誰かにとっては恩人であり、誰かにとっては血縁であり、誰かにとっては赤の他人であり……果てしなく様々なとらえ方をすることができるように、あらゆるもの、あらゆる現象に、無数の層があります。
あらゆる見方、とらえ方はどれが正しいということはなく全て等しく真実です。ただ、こけまるさんがホモ・サピエンスのモンゴロイドのメスであるかどうかが問題になる局面は、こけまるさんがこけまるさんであるかどうかが問題になる局面に比べて非常にまれであるため、こけまるさんが「ワタクシはホモ・サピエンスのモンゴロイドのメスです」と名乗ったり、誰かに「ホモ・サピエンスのモンゴロイドのメスさん」と呼びかけられたりすることが滅多にないだけのことです。

この世のすべてはあらかじめ定められている、人の意志や偶然にしか見えない巡り合わせの隅々まで、という言い方と、未来はまったくの白紙なのだ、一人ひとりが未開拓の未来を一歩一歩、切り開いていくのだという言い方は、実は、この<層>の違いによってもたらされる見え方の違いであって、すなわち、どちらが正しいということはなく等しく真実です。

ここまでのご理解、よろしいでしょうか?

そうした<層>のひとつに、この世のすべては別次元の存在が行っているゲームである、というものがあります。これは、真実です。あなたは、この<層>にたって物事を見ることを望みさえすれば、ご自分が誰かがプレイしているゲームの中の登場人物であるということを真実とすることができ、したがって、攻略サイトは存在するということを真実とすることができ、そして当然の帰結として、攻略サイトを見ることができるのはゲームのプレイヤーであって、ゲームの中の登場人物ではないという結論をも真実とすることになります。

すなわち、あなたが攻略サイトを求める限り、あなたは攻略サイトを参照することはできません。
脱出ゲームの主人公として、正しく毎日の苦難に打ち勝ってください。
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by atohchie | 2003-04-01 01:55 | 缶詰製作中(書斎より)


阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。


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