本についてのご質問をいただきました。
Pカンパニーの茜部真弓さんからいただきました。
先日、ご馳走になりましたときに、ファンタジーのお話がちらりと出ましたので、阿藤さんが小さい頃に夢中になられた本、現在のルーツになったような本について、思う存分に書いていただけないでしょうか。
なんたる質問!茜部さん、ありがとう!
子どもの頃、本が大好きでした。
小学生の頃の自分を思い出すと、とにかく本を読みたいという欲望以外に、のぞむことは何もなかった。
いや、他に欲がなかったわけではなく、たとえばひどく食いしん坊だったのは、もちろんそうなんだけれど、食欲なんかはその都度みたされて霧消していたのではないかしら。それに比べ、本を読みたいという欲望には際限がなく、読んでも読んでもきりがなく、家にあった姉たちの本、学級文庫、近所の児童文庫、市立図書館、いろんなところにお世話になった。
学校の帰り道に本を読みながら器用に電柱を避け、水たまりをよけて歩いている自分に感心したことも覚えているし、図書館で5冊の本を選んで帰ってくる道々、どうしても我慢できなくて自転車のハンドルの上に本を広げてみて、歩くのとは違って自転車は本を読みながらでは進めないことを身をもって思い知らされたこともあったっけ。
読みたい本がたくさんあると、順序よく読んでいくという事ができなくて、一冊を途中まで読んでは次の本を広げ、また次の本を開いて床に置き、ある日、床にうずくまって回りに本を並べ、ぐるぐると回りながら同時進行的に読んでいる私を姉が発見したこともあるらしい。
一つのことを完全に終わらせる前にほかの事に手をつけてしまうのは、本だけでなくあらゆることに今も残る悪い癖だから、それなのではないかと私は思っているけれど、姉いわく、「なんでそんな読み方するの?」ときいたところ、幼い私は、「一冊ずつ読むよりそのほうが長く楽しめるから」と言ったらしい。まあそういう効用はあるか。
あの頃、私をどきどきさせてくれた本の多くが「岩波書店」の出版。「書店」っていったら「本屋さん」だ。私おおきくなったら「岩波書店」で働きたい。岩波書店は大阪・梅田の紀伊国屋書店をはるかにしのぐ大きな本屋さんに違いない。本棚が並ぶ部屋には、高い天井までぎっしりとわくわくさせる本がならんでいて、本棚の間には背の高い脚立がおいてあって、書店員である私は脚立のてっぺんに腰を落ち着けて、日がな一日本を読んで暮らすのです。
なあんていう本の虫生活は、しかし、長くは続かなかった。
中学生になる頃にはそれなりに漫画も読むようになり、小学生の頃はほとんどやってなかった友だちづきあいなんかも大切になり、必然的に男の子の噂話なんかで忙しくもなり、読むものは少女向けのライトノベルになって、集中力の全てを奪われるエネルギーのいる本というのは、しばらくの間ごぶさたになってしまった。
数年後、本を読む力ががっくりと衰えていることに気づいて愕然とし、中学生時代を悔いたこともありましたけれど、小学生の頃のように友だちも作らず、外遊びもせず、物語の中でだけ生きていたらもっと後悔することになったかもしれない。
なんせ私、女子の大好きな遊び「ゴム跳び」を一度もしたことがない。大阪では「ぬすたん(盗人と探偵)」と呼ばれ、東京あたりでは「どろけい(泥棒と刑事)」というらしい鬼ごっこのルールも、ときどき授業時間をつぶしてみんなを空き地に連れていってくれたN川先生に教わったのだ。ゴム跳びだけは、学んでおくべきだったと、今でも思わないではないけれど、結局のところ人生は一度きりしかないということなのだ。あんなに本を読んでいたら外遊びはできないし、外遊びに夢中な子どもは物語にどっぷりつかることはできない。物語にどっぷりつかって生きていたあの頃、私はおそろしく幸せだったから、ゴムの跳び方を知らないことは小さな瑕にすぎないと思うべきなのだろう。
そんなこんなで本の話をこれから少しずつ、始めます。「水曜日は本の話」というカテゴリで、なるべく毎週かいていきますので、話がつきるまで、しばしお付き合いくださいませ。
先日、ご馳走になりましたときに、ファンタジーのお話がちらりと出ましたので、阿藤さんが小さい頃に夢中になられた本、現在のルーツになったような本について、思う存分に書いていただけないでしょうか。
なんたる質問!茜部さん、ありがとう!
子どもの頃、本が大好きでした。
小学生の頃の自分を思い出すと、とにかく本を読みたいという欲望以外に、のぞむことは何もなかった。
いや、他に欲がなかったわけではなく、たとえばひどく食いしん坊だったのは、もちろんそうなんだけれど、食欲なんかはその都度みたされて霧消していたのではないかしら。それに比べ、本を読みたいという欲望には際限がなく、読んでも読んでもきりがなく、家にあった姉たちの本、学級文庫、近所の児童文庫、市立図書館、いろんなところにお世話になった。
学校の帰り道に本を読みながら器用に電柱を避け、水たまりをよけて歩いている自分に感心したことも覚えているし、図書館で5冊の本を選んで帰ってくる道々、どうしても我慢できなくて自転車のハンドルの上に本を広げてみて、歩くのとは違って自転車は本を読みながらでは進めないことを身をもって思い知らされたこともあったっけ。
読みたい本がたくさんあると、順序よく読んでいくという事ができなくて、一冊を途中まで読んでは次の本を広げ、また次の本を開いて床に置き、ある日、床にうずくまって回りに本を並べ、ぐるぐると回りながら同時進行的に読んでいる私を姉が発見したこともあるらしい。
一つのことを完全に終わらせる前にほかの事に手をつけてしまうのは、本だけでなくあらゆることに今も残る悪い癖だから、それなのではないかと私は思っているけれど、姉いわく、「なんでそんな読み方するの?」ときいたところ、幼い私は、「一冊ずつ読むよりそのほうが長く楽しめるから」と言ったらしい。まあそういう効用はあるか。
あの頃、私をどきどきさせてくれた本の多くが「岩波書店」の出版。「書店」っていったら「本屋さん」だ。私おおきくなったら「岩波書店」で働きたい。岩波書店は大阪・梅田の紀伊国屋書店をはるかにしのぐ大きな本屋さんに違いない。本棚が並ぶ部屋には、高い天井までぎっしりとわくわくさせる本がならんでいて、本棚の間には背の高い脚立がおいてあって、書店員である私は脚立のてっぺんに腰を落ち着けて、日がな一日本を読んで暮らすのです。
なあんていう本の虫生活は、しかし、長くは続かなかった。
中学生になる頃にはそれなりに漫画も読むようになり、小学生の頃はほとんどやってなかった友だちづきあいなんかも大切になり、必然的に男の子の噂話なんかで忙しくもなり、読むものは少女向けのライトノベルになって、集中力の全てを奪われるエネルギーのいる本というのは、しばらくの間ごぶさたになってしまった。
数年後、本を読む力ががっくりと衰えていることに気づいて愕然とし、中学生時代を悔いたこともありましたけれど、小学生の頃のように友だちも作らず、外遊びもせず、物語の中でだけ生きていたらもっと後悔することになったかもしれない。
なんせ私、女子の大好きな遊び「ゴム跳び」を一度もしたことがない。大阪では「ぬすたん(盗人と探偵)」と呼ばれ、東京あたりでは「どろけい(泥棒と刑事)」というらしい鬼ごっこのルールも、ときどき授業時間をつぶしてみんなを空き地に連れていってくれたN川先生に教わったのだ。ゴム跳びだけは、学んでおくべきだったと、今でも思わないではないけれど、結局のところ人生は一度きりしかないということなのだ。あんなに本を読んでいたら外遊びはできないし、外遊びに夢中な子どもは物語にどっぷりつかることはできない。物語にどっぷりつかって生きていたあの頃、私はおそろしく幸せだったから、ゴムの跳び方を知らないことは小さな瑕にすぎないと思うべきなのだろう。
そんなこんなで本の話をこれから少しずつ、始めます。「水曜日は本の話」というカテゴリで、なるべく毎週かいていきますので、話がつきるまで、しばしお付き合いくださいませ。
by atohchie
| 2010-08-18 11:53
| お題をいただきました
阿藤智恵の「気分は缶詰」日記/劇作家・演出家・翻訳家(執筆中は自主的に「缶詰」になります)=阿藤智恵の日記です。
by atohchie
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阿藤智恵NEWS
●脱原発世界会議に賛同します。安心できる明日を子どもたちに。
●阿藤智恵サイトを更新しました更新日:2013年12月31日(火)
◆これからの阿藤智恵◆
1月19日
「第3回JAZZ&お話ライブ」
1月23日
「どこそら会」
3月8・9日
「『えんげき』のじゆうじかん」の
小さなお芝居の会と「ちえよむ会」
●戯曲集『十六夜の月』を出版しました。
ご購入は阿藤智恵への直接注文または書店にてご注文ください。また、ネット書店でも購入できます。
●受賞しました。
加藤健一事務所vol.83 「シュぺリオール・ドーナツ」
念願の翻訳デビュー、果たしました!
→本作品で、第5回小田島雄志・翻訳戯曲賞をいただきました。加藤健一さん、演出の大杉祐さんはじめ公演座組の皆さん、また、翻訳作業にお力添えを下さった多くの方々に、心から感謝します。
●戯曲『死んだ女』が雑誌【テアトロ】2013年1月号に掲載されました。
★『どこまでも続く空のむこうに』の劇評をいただきました!!大変な力作です。ぜひご一読ください。2012.4.19
こちらをクリック=
劇評サイトWonderland
●戯曲『どこまでも続く空のむこうに』が雑誌【テアトロ】2012年4月号に掲載されました。
●小説『マチゾウ』で同人誌【突き抜け4】に参加しました。
ご購入はこちらへ(「阿藤サイトから」と一言お書き添えくださいませ)。
★『曼珠沙華』の劇評をいただきました!!
ぜひご一読ください。2011.10.26
こちらをクリック=
劇評サイトWonderland
●公演終了しました。
Pカンパニー番外公演その弐「岸田國士的なるものをめぐって~3人の作家による新作短編集~」竹本譲さん、石原燃さんと、短編を1本ずつ書きました。私の作品タイトルは『曼珠沙華』です。
★雑誌『テアトロ』10月号に三本そろって掲載されています。
●連載エッセイ「本日も行ったり来たり~トハナニカ日記~」
雑誌【テアトロ】2012年1月号に最終回が掲載されています。
●日記のお題、ください!
阿藤への質問、お悩み相談、どのようなことでもどうぞ。心こめて書かせていただきます。
お題は阿藤へのメール、または、日記へのコメント(どの記事につけてくださってもOKです)でどうぞ。
●戯曲『十六夜の月』が雑誌【テアトロ】2011年7月号に掲載されました。
●小説『ツヅキ2011』で同人誌【突き抜け3】に参加しました。
ご購入はこちらのフォームへ(「阿藤のブログから」と一言お書き添えくださいませ)。
●戯曲『バス停のカモメ』が雑誌【テアトロ】2010年1月号に掲載されました。
●戯曲『しあわせな男』が雑誌【テアトロ】2008年10月号に掲載されました。
●石井ゆかりさんの
「石井NP日記」で
インタビューを受けました。
こちらの
「ロードムービー・その1」で5番目にインタビューされています。
●阿藤智恵サイトを更新しました更新日:2013年12月31日(火)
◆これからの阿藤智恵◆
1月19日
「第3回JAZZ&お話ライブ」
1月23日
「どこそら会」
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小さなお芝居の会と「ちえよむ会」
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念願の翻訳デビュー、果たしました!
→本作品で、第5回小田島雄志・翻訳戯曲賞をいただきました。加藤健一さん、演出の大杉祐さんはじめ公演座組の皆さん、また、翻訳作業にお力添えを下さった多くの方々に、心から感謝します。
●戯曲『死んだ女』が雑誌【テアトロ】2013年1月号に掲載されました。
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ぜひご一読ください。2011.10.26
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●連載エッセイ「本日も行ったり来たり~トハナニカ日記~」
雑誌【テアトロ】2012年1月号に最終回が掲載されています。
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